『少年寅次郎』も岡田惠和ワールド全開! 井上真央にとっての30代の代表作になる予感

『少年寅次郎』も岡田惠和ワールド全開!

 10月19日よりNHKの土曜ドラマ枠にて全5話で放送される『少年寅次郎』は、山田洋次が監督を務めた渥美清主演の国民的映画『男はつらいよ』シリーズのフーテンの寅さんこと車寅次郎の子ども時代を描いたドラマだ。

 脚本は連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK総合)や『セミオトコ』(テレビ朝日系)といった数々の作品で知られる岡田惠和。原作は山田洋次が執筆した「悪童 小説 寅次郎の告白」(講談社)。

 先日行われた試写会終了後の記者会見によると、本作が『男はつらいよ 寅さんDVDマガジン』の小冊子に連載されていた時から岡田が本作を愛読しており、ドラマ化は岡田の希望だったという。そう聞くと、原作に忠実なのかと思いそうだが、出来上がった印象は意外と違うのが本作の面白さだろう。

岡田惠和ワールド=ユートピア的な優しい世界


 原作小説は車寅次郎の一人称で話が進んでいく。つまり一度聞いたら忘れられない、あの寅さんの名調子で進んでいくので、渥美清の声が頭の中でずっと流れているのだ。この語りは本作最大の武器で、これさえあれば何をやっても『男はつらいよ』になるのだが、逆にこの語りが大きな制約にもなっているとも言える。何より渥美清はすでにこの世にいないため、語りの再現は不可能だ。

 だからドラマ版は、この最大の武器をあっさりと放棄している。ナレーションは原由子が担当し、物語も寅次郎が誕生した夜からはじまっている。

 つまり、一人称から三人称視点に物語を置き換え、寅次郎を中心とした地域共同体の話となっているのだ。その結果、同じ物語を扱いながらも印象は大きく変わっており、『男はつらいよ』でありながら、『ちゅらさん』(NHK総合)や『ひよっこ』を彷彿とさせる、いつもの岡田惠和ワールドに仕上がっているのである。

 いつもの岡田惠和ワールドとはどういうことか? それは、性善説に基づいたユートピア的な優しい世界ということだ。寅次郎は父親の平造(毎熊克哉)が芸者のお菊との間に作った愛人の息子で、二・二六事件が起きた夜に、くるまやの前に捨てられていた。

 そんな赤ん坊を母親の光子(井上真央)はしょうがないねぇと笑いながら、実の息子として優しく育て、時に厳しく叱る。時代は戦時中で、平造は遊び呆けているため、決して豊かではないが、それでも元気に暮らす寅次郎にとっては温かい人々に囲まれた幸せな子ども時代だったということが見ていて伝わる。

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