飯テロドラマの元祖! 『孤独のグルメ』『深夜食堂』が愛され続ける長寿シリーズとなった理由

『孤独のグルメ』が長寿シリーズとなった理由

 世に「飯テロドラマ」は数あれど、この2本に勝る者はないのではないだろうか。『孤独のグルメ』と『深夜食堂』である。現在テレビ東京で放送中の『孤独のグルメ』はシーズン8で8年目、10月31日からNetflixで配信が開始される『深夜食堂』は、第5弾にして10年目を迎えている。飯テロドラマの元祖とも言える2作品が、長く愛され続けている理由を探ってみたい。

『深夜食堂』:こんなお店があったら毎日通うのに

Netflixオリジナルシリーズ『深夜食堂-Tokyo Stories Season2-』

 『深夜食堂』シーズン1は「赤いウインナーと卵焼き」から始まる。『孤独のグルメ』の五郎さんこと、味のあるヤクザ・竜ちゃん役の松重豊が実にいいのだが、なによりの主役は、卵焼き器の上でふわっと美味しそうにできあがる「甘い卵焼き」なのである。次の回は、田畑智子演じる、売れない演歌歌手が食べる「猫まんま」。これもまた、朝の光を浴びた、炊き立てのご飯の上で揺れる削りたての鰹節に醤油をかける様が、見た事もないほど美味しそうだ。

 この1・2話を見ていて思い出したのが、向田邦子のエッセイに登場する、小さい頃に食べていた「極上の海苔弁」の話だ。

「ごはんも海苔も醤油も、まじりっ気なしの極上だった。かつお節にしたって、横着なパックなんか、ありはしなかったから、そのたびごとにかつお節けずりでけずった。プンとかつおの匂いのするものだった。(中略)かつお節は、陽にすかすと、うす赤い血のような色に透き通り、切れ味のいいカンナにけずられて、見るからに美しいひとひらひとひらになった。」(向田邦子『海苔と卵と朝めし』p.90、河出書房新社)

 手近なもので簡単にできそうだから、いてもたってもいられず真似しようと思うのだが、できない。かつお節はパックで済ませてしまうし、海苔もわざわざ火にはくべないし、かまどでご飯は作れない。そんな究極の海苔弁は、この先どんな料亭に行って高いお金を出したところで、出会える味ではないのだろう。それは物理的な意味でもあるが、文章の中に、向田邦子の幼い頃への郷愁が混じっているからでもある。

 煙草がよく似合う、シャイなマスター(小林薫)のいる深夜食堂「めしや」には、それがある。「めしや」の味は、言ってみれば「極上の海苔弁」の味なのだ。シンプルかつ丁寧に、ちゃんと作られた温かい味であり、郷愁の味。そしてそれは、切ない過去や現在を持ち寄って、夜の街に集う個性的な登場人物たちの心を繋ぐ。竜さんの食べる赤いタコさんウインナーや、第4弾(Netflix『深夜食堂-Tokyo storiesシーズン1-』)で登場した、薄いハムと厚い衣で作ったハムカツもそうだが、その思い出と一緒に食べるから、この上なく美味しい。

 そしてお酒に合う味であるということも、重要なポイントだろう。梅酒片手に「梅干しと梅酒」の回は見てしまったし、ラブホテルの掃除婦をしているカエ役で宮下順子が登場した回の「白菜と豚バラの一人鍋」とぬる燗はこの季節にはたまらないものがあった。「こんなお店があったら毎日通うのに」と呟きながら、どうにかして自分で作ってみるのである。

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