「Ingress」アニメ化決定!「+Ultra」枠から見る世界へのジャパンカルチャー拡大の戦略

「+Ultra」枠に見るジャパンカルチャー拡大の戦略

 週末になると、近所の小さなストアの前に平日では考えられないくらいの人だかりができる。なぜならそのお店は「ジム」であり、そこに集まるのは「トレーナー」、そして週末には「レイドバトル」が開催されるからだ。これらは全部『Pokémon GO』によって引き起こされた都市の変容だ。位置情報を取得して遊ぶPokémon GOは大きな社会現象となり、時には被災地に観光客を送客するための一つの装置にもなった。そんなPokémon GOの前身とも言えるARを活用した位置情報ゲーム『Ingress』が2018年10月、アニメになる。

TVアニメ「イングレス」プロジェクトPV

リアルとデジタルの狭間「Ingress」とは

  IngressはAR(拡張現実)や位置情報を活用したスマートフォンアプリで、Googleにおける社内スタートアップとして発足され、後に独立し、Pokémon GOを発表するナイアンテック社から発表された。Ingressのプレイヤーは「エンライテンド」「レジスタンス」のいずれかの勢力に別れ、ARと位置情報を用いながら、ポータルと呼ばれる拠点を占拠する。つまり現実の地図データを活用した大規模陣取り合戦のようなゲームだ。プレイヤーは実際にスマホを片手に街を歩きながら、ポータルを占拠し、さらにポータルとポータルをつないでエリアを拡大していく。Ingressはまさに目の前に広がる都市というリアルとスマホの中のデジタルの世界が溶け合うようにつながる新感覚のゲームだった。

アニメ版『Ingress』、そのあらすじ

 アニメもゲームと同じく「エンライテンド」「レジスタンス」といった勢力や「XM」といった概念など共通する部分ももちろん多い。物語は2013年、アニメファンなら『STEINS;GATE』でもおなじみの、スイスの原子核研究機構「CERN」から始まる。ヒッグス粒子発見の影で、人間の精神に干渉し、これまでの歴史にも影響を与えてきたとされる未知の物質「エキゾチック・マター(XM)」を研究するため秘密裏に発足された「ナイアンティック計画」 そしてXMの力を受け入れ、人類の進化に利用しようとする『エンライテンド』とXMを脅威と見なし、コントロールしようとする『レジスタンス』が陣営を2つに分かち、世界は戦いに巻き込まれていく…といったあらすじだ。

ジャパンカルチャーの担い手を目指す「+Ultra」

 今回、そんなIngressのアニメが放送されるのは『PSYCHO-PASS』などの数々の人気アニメを輩出してきた深夜放送枠「ノイタミナ」に次ぐフジテレビの新たな深夜アニメ枠として新設される「+Ultra」。同枠は海外へ日本のアニメカルチャーをさらに広めるべく、国内のみならず全世界を対象としたアニメを展開していく計画だ。 確かに、全世界にユーザーを抱えるIngressがアニメとなることで、前提となる知識を世界中の視聴者と共有したまま、スムーズにストーリーを展開していくことは、グローバルなマーケティング視点で考えた時にも非常に有効な手段だと言えるだろう。

本当に世界へアニメを発信するのは誰?

 「+Ultra」がジャパンカルチャーを世界に届けていくことを目的とする中で、同じく日本の高品質な作品をより多くの国々へ届けようとアクションを起こしたのが、動画配信サービスの雄「Netflix」だ。Netflixは2月、日本の大手アニメ制作会社Production I.G.、それにボンズとの業務提携を発表。Netflixが自社コンテンツの制作に惜しみない力を注ぎ、常にクオリティを求め続けているのは有名な話だが、実際にNetflix社は2018年中に700本以上のコンテンツを投下することを宣言。その制作費も桁違いの8000億円以上、さらにマーケティングには2000億円以上もの巨額の投資を行うことを決定している。一般的な日本のアニメ制作費が約2億円程ということを考えると、1本あたりにかけられる制作費も大きなものになってくるだろう。さらに約1億2000万という日本の人口に迫るユーザー数(人口における動画視聴者数に換算したらはるかに上回る)を抱えるその基盤は、おそらく何よりも強固で盤石なはずだ。「+Ultra」が掲げるビジョンを本当の意味で達成できるのは他の誰でもないアメリカ生まれのストリーミングサービスなのかもしれない。

現実世界に新たな価値を

 IngressやPokémon GOがスマホを媒介にして都市の有り様やユーザーの消費行動を良い意味でも悪い意味でも僅かながら変革しているのは紛れもない事実だ。今までは物質的な供給しかもたらす事ができなかった現実の世界はARというリアルを拡張する技術によって新たな価値を創出している。Ingressのアニメ化は停滞気味だったエンライテンドとレジスタンスの戦いをより熾烈な物とするきっかけになるだろう。

■ げんきくん
興味のある領域はテクノロジーとオカルト、宗教、デザイン。
@genkl_kun

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