議論進む“放送規制全廃”でメディア環境はどうなる? ジャーナリスト西田宗千佳氏に聞く

 共同通信が3月22日、安倍政権が目指している放送制度改革で、「政治的公平性」などを定めた放送法4条を始めとする放送関連の規制を全廃する方針であると報じた。実現すればインターネット配信サービスとテレビ局/ラジオ局が並列の扱いになり、メディア環境も大きく変わることになりそうだが、この議論のポイントはどこにあるのか。放送や配信に詳しいジャーナリストの西田宗千佳氏に話を聞いた。

「まだ情報が少なく、確たることを言える状況にはありませんが、前提からお話しすると、『放送』というのは、局が国が持っている電波を借りて提供しているサービスです。つまり、国民の資産である電波を割安で、テレビ局、ラジオ局に貸し出している。その代わりに、国民に対して公平な存在でなければいけませんよ、というのが『放送法』というものです」

 それではなぜ、この放送法を改正しようという議論になっているのか。そのポイントは、インターネットの普及により「映像を国民に届ける」ことがテレビ局の専売特許ではなくなった現状と、「放送局が必ずしも放送法の理念通りに運営されているとは言えない」という事情があると、西田氏は語る。

「一今は個人のネット配信も当たり前になりましたし、abemaTVがやっていることと、テレビ局がやっていることが大きく違うかと言えば、違わない。作っているところは同じで、流れているところが違う、というだけです。また、現状でテレビ局やラジオ局が、本当に政治的に公平な番組作りをしているかというと、そうではなく、番組基準のようなある種の規制も守られているかは怪しい。そうした状況で、放送の電波をずっと特別なものとして置いておく理由は、どんどんなくなっているのは事実です。『国民のため』ということであれば、テレビ番組もインターネットとの同時放送があったほうがいいでしょう。だとすれば、現在の放送規制を撤廃し、歪んでいるところをきれいにしましょう、という議論なのだと理解しています」

 では、直ちに放送規制を全廃し、民放のテレビ局とインターネット事業者を全く同じ扱いにできるか。放送の公平原則を1987年に撤廃したアメリカの例を引きながら、西田氏は次のように疑問を呈する。

「例えば、アメリカでは『トランプが勝ったのは、右寄りで彼に有利な報道をするFOXというテレビ局の力が大きかった』とも言われますし、放送規制がなくなれば、それと同じように、特定の政治家に有利な報道をするテレビ局も作ることができる。思想、宗教についてもそうですし、何でもバラバラに、完全に自由にするということがすぐにできるのか、という問題はあります。また、民間放送としては自由も生まれますが、自分たちに有利だったものがなくなる、という反発が起こる可能性もありますし、NHKが別格になりますから、それでいいのかという議論もあり、新しい問題が生じる可能性は極めて高い」

 それでは、規制が撤廃されたとして、何が起こるのか。西田氏は「当面、大きな変化は起きないだろう」とした上で、次のように指摘する。

「放送と通信の間に壁がある、という状況が、建前も含めてなくなることで、ネットでテレビ番組が見られる、という状況は広がるでしょう。今後さらに民放の力が弱くなっていく可能性もあり、10年、15年というスパンで見ると、強い映像コンテンツを出している会社の序列が、大きく変わっているかもしれません」

 放送制度改革に向けた工程や、規制撤廃後に生まれるだろう新たな枠組みなど、引き続き続報に注視したい。

(文=編集部)

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