歌広場淳の新連載スタート! 第一回:泣くほど感動した「EVO」の話をさせてくれ

歌広場淳、泣くほど感動した「EVO」の話

 大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー・歌広場淳。3月に公開したインタビュー【ゴールデンボンバー歌広場淳が明かす、eスポーツ大会に出場した理由「ゲームで“まじ”になれば人生が変わる」】が大反響を呼んだことを受け、彼による連載「格ゲーマーは死ななきゃ安い」がスタート。記念すべき第一回は、現在アメリカ・ラスベガスで開催されている世界最大級の格闘ゲーム大会『The Evolution Championship Series』(EVO)について、記憶に残る名勝負や、“泣ける思い出”までを語ってもらった。(編集部)

 泣くほど感動した「EVO」の話

  僕が『EVO』という大会を初めて認識したのは、たぶん10年くらい前。当時はまだ大会の規模も小さく、いまのように「eスポーツ」という考え方も浸透していなかったので、仲間内で「ゲームをするために、わざわざアメリカまで行くの?」というような会話をしていたことを覚えています。海外に渡航してまで戦う、ということを想像できなかったし、同時に「もし日本人が参加したら、バチバチに勝つに決まってんじゃん」と。実際、当時は志の高いプレイヤーほど国内で切磋琢磨していて、海外の大会に参加するのは、むしろ楽しんでいるプレイヤーだったと思います。

 それがいまは、海外の大会を転戦するプレイヤーも増え、海外勢との実力も拮抗。『EVO』のような世界最大規模の大会は、ゲーマーにとって名誉をかけて戦う場であるとともに、名を上げるチャンスが得られる場になっているんじゃないかと。例えば去年は、若手のスーパープレイヤー・もけ選手が『ストリートファイターⅤ』で壇上(ベスト8)に残り、大ブレイク。帰国後、スポンサードを受けてプロゲーマーになりました。トップ層のプレイヤーにとってはそういう大会だし、また『EVO』は参加するための敷居が低いので、誰でも祭りとして楽しむことができる。本当に素晴らしい大会だと思います。

 記憶に残る名勝負は数多くありますが、昨年の『EVO』では、『ストリートファイターⅤ』のGrandFinal(決勝)――東大卒のプロゲーマー・ときど選手と、予選から決勝まで1セットも落とすことなく、圧倒的な強さを見せつけてきたPunk選手(アメリカ)の一戦が最高でした。『EVO』のトーナメントは、1度負けても「ルーザーズ」で勝ち続ければ優勝が狙える、ダブル・エリミネーション方式を採用していて、ときど選手は一度、Punk選手に負けていた。ポイントになったのは、豪鬼を操るときど選手が画面端に迫り、空中から飛び道具を放つ「斬空波動拳」を撃った際に、かりんを操るPunk選手が絶妙なタイミングで移動技を繰り出してそれをくぐり、着地の隙をついて倒しきる、というプレイでした。

 しかし! 決勝では同じシチュエーションで、Punk選手が移動技を繰り出したとき、ときど選手は後ろに攻撃判定があるジャンプ中キックでそれを潰した。このレベルのプレイヤーにとっては、「そりゃ対策するよね」という当たり前のことかもしれないけれど、僕は本当に涙を流すくらい感動しました。この一つのプレイに、「負けてたまるか!」「なめるなよ!」という強い思い、相手へのメッセージを感じ、やはり格闘ゲームはコミュニケーションツールなんだ、ということを思い知ったんです。

 ときど選手は見事に優勝。そのときに、配信番組で解説をされていたハメコ。(@hameko)さんが語ったエピソードがまた、素晴らしかった。ときど選手が『鉄拳』のイベントに出演した際に、控え室であるプレイヤーに対して、「もし“鉄拳星人”が地球に攻めてきたらどうする? もし地球の代表が負けたら、人類は滅ぶ。自分は代表に選ばれると思う? 選ばれたい?」と問いかけたそうです。相手が答えあぐねていると、ときど選手は「俺は“ストⅤ星人”が攻めてきたら、地球代表に選ばれたい。最強って、そういうことなんだと思う」と話したそう。

 格闘ゲームに限らず、こんな思いでひとつのことに打ち込んでいる人が、地球上にどれだけいるだろう? 普通は笑っちゃうような話かもしれないけれど、実際に“格ゲー星人”のような異次元の強さを誇っていたPunk選手を倒し、世界一になった。僕も、もし“ライブ星人”が地球に来て、「楽しいライブをしなかったら皆殺しだ!」と言ってきたときに、ゴールデンボンバーは手を挙げられるバンドでなければ、と思います。X JAPANさんが手を挙げてくだされば譲りますけど(笑)、少なくともその気持ちでいなきゃと。これも、格闘ゲームから学んだ多くのことの一つ。人が笑ってしまうようなことを真剣にやっている人は、本当にカッコいいです。

 『EVO』でもうひとつ、記憶に残るシーンを挙げるとしたら、やっぱりあまりにも有名な「背水の逆転劇」。2004年大会の『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』部門で、ウメハラ(梅原大吾)選手が、アメリカの英雄=ジャスティン・ウォン選手に対して演じた、劇的な逆転勝利です。ウメハラ選手が操るケンの体力は残り1ドットで、必殺技をガードしても死ぬという状況。そこで、ジャスティン選手は春麗のスーパーアーツ=連続でキックを繰り出す「鳳翼扇」を放つが、ウメハラ選手はそれをすべてブロッキング(※相手の攻撃を受ける瞬間にレバーを入れることで、ダメージを無効化するシステム)して、逆に最大コンボを決めて倒しきった、という試合です。

 テクニックの凄さ、それを大舞台でやってのけた精神力、最後の「それでしか倒せない」というコンボ選択と、多くの要素が詰まったプレイですが、動画が拡散されて、梅原大吾という人を取り巻く環境を一気に変えてしまった、ということが大きいと思います。僕も「女々しくて」のヒット以降、少し感じたことですが、ひとつのきっかけで人生を変えてしまうようなことが、格闘ゲームにもある。この動画はゲームのことを何も知らない人でも、見たことや聞いたことがあるかもしれないし、実際に見てみると、「すごいことが起きている」のは一目瞭然で、現場の熱狂に「格闘ゲームというのは、ものすごい熱量のあるものなんだな」ということを感じられると思います。

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