ライブ演出を“総合エンターテイメント”にするための方法 空間演出ユニットhuezによる『CY8ER 4th ワンマンライブ』解説(後編)

 空間演出ユニットhuezによる連載「3.5次元のライブ演出」。テクノロジーの進化に伴い、発展を遂げるライブ演出は今後どのように変化していくのか。前回に引き続き、同ユニットのとしくに (ステージディレクター・演出家)に、最新事例を通して、先端技術のその先にある、ライブ体験のより本質的なキー概念について語ってもらう。ケース・スタディ「CY8ER 4th one-man live "SOUND OF ME"」(新木場STUDIO COAST) 後半は、これまでに語られたことのない「ライブ演出の教科書」ともいえる実践的な技術に踏み込む内容となった。(編集部)

【前編]】はこちら

15秒毎に飽きない画が延々とつづく

 ワンマンライブは、だいたい20曲ほどで組まれる。今回は22曲。そうすると、見た目の画が飽きないというのはかなり重要。自分はお笑いをやっていたから、ということもあるが、漫才だと10秒から15秒に1回、コントだと15秒に1回笑いをとるのが基本で、ライブでも「15秒にどれだけ情報を詰め込めるか」をすごく意識している。

 こういった構造を、ライブ演出に取り入れるとき、影響を受けたのが映画監督の中島哲也さんだ。中島さんは元々CMの監督さんで、『下妻物語』や『嫌われ松子の一生』は特にそうだが、15秒毎に飽きさせない画が延々とつづく、という演出を効果的に使う。

 今回、自分はそこまでの秒数は切ってない。しかしそれでも、1曲1曲で飽きないようにと。例えば、「明るすぎる」と「暗すぎる」の使いかた。メンバーが、閃光で見えないぐらい明るいとか、見えないぐらい暗いとか。色味が、かなりあちこちに移動するつくり方をしている。

 もちろんワンマンライブだから、ファンの人たちは、演者をちゃんと見たい。そのために、ベタに言う「サービス映像」という、演者が見える状態もつくる。メンバーの顔が後ろにどんと映る、この「見えるシーン」で重要になるのは、なるだけシンプルにやることと、人間味を出すことだ。余計な光は出さないし、本人に焦点がいくように、例えば照明はスポットライトだけというのを意図的にやる。この状態になるのは、このライブでは2曲だ。

1曲に3、4コのギミックが最低条件

 それ以外の部分で、ギミックをどれだけ詰め込められるか。今回のライブは、細かいギミックをかなり入れているケースだ。最低条件は、1曲に3、4コで、必ず違うギミックを入れる。1曲のためだけの演出をいくつも用意して入れていく、という。これはつくり方のコツでもあるが、「法則を決める」というのが重要になる。

 演出のギミックは、分かりにくいものもある。それは、「この曲のこの部分はキックだけ全部レーザーがとってください」「ミドルハイの音は全部映像がとってください」「照明はここだけは全部引いてください」みたいなものだ。

 基本的に音楽、曲には、すごくざっくり言えば、「1番、2番、ラスサビ」という構成がある。そこに「A、B、C」というギミックを入れる。ただ、次の曲も同じように「A、B、C」とやると、曲並びで飽きてしまう。だから、今度は曲並びのなかでも違うことをやらなくてはいけない。ただ、「変えてく、変えてく」というのを毎回やると、今度は「変えること」にお客さんが飽きる。次は、それをブロックレベルで考えなければいけない。

 だから何も変えないブロックや、「これしかやらない」というブロックを意図的に入れることで、今度はブロックのなかで演出を変えていく。自分の体感だと、ライブのなかで繰り返しが1回でもあると飽きられてしまう。

 今回は、ギミックが変わりまくるブロック、ギミックがちょっとしか変わらないブロック、意図的にギミックという概念がそもそもないブロック、一つのギミックがだんだん変化していくブロック、そして、最後のアンコールのブロックは、全ギミックが1曲ずつで見られるというブロックになっている。

物量というギミックを当てる

照明バトン図

 機材のギミックで、今回、これは当たったというのを挙げると、まず単純に、これは思いっきり自分の作家性なのだが、物量というギミックがあり、入れた量が当たった。機材は1つでも、ギミックが10コくらい入っているようなもの。つまり、ほぼ無限にギミックが使えるようになるということだ。

 例えば、照明だったら、色、動き、つけるタイミング、数とか、あとは光量、明るいかとか、めっちゃ濃いかとかーーそれはレーザーでも同じくらいある。映像を出すというのでも、CGを出す、実写を出す、アニメーションを出す、ただそれが光ってるだけ、真っ白にパーンと閃光するだけ……など、各機材でできることは何コも何コもある。

 あとこれは、小道具という部類だが、ハンドレーザーは1コのギミックしかなくて、それしか出せない、というのも1ギミックになる。それを、本当にたった一瞬のために使うと。それに、小道具はつくることもできる。例えば、衣装がいきなり突然光るというものも、光ることしかできないけど、つくれば、1ギミックにできる。

機材システム図

 また、自分がよく使っている、大切にしているギミックに「暗転」がある。闇をつくったとき、その闇にプラス1コ何か入れると、それが完全に勝つ、というのをかなり使う。暗転は、ノンストップで次々に変わっていくものから、1回時間を止める効果がある。そうすると空気が変わって、観客のテンションを瞬間的に落ち着かせることができる。

 今回で言うと、暗転は、3ブロック目のピーク盛り上がり、DJの最後のシーンがあり、それが終わったときに1回。そして、その後の4ブロック目に、「演者を見せる」というシンプルなシーンがあり、この終わりでも、暗転を入れて、お客さんのテンションと空間を1回ゼロにしている。

 また今回はお立ち台があり、これも1ギミック。お立ち台に乗るか、乗らないかという違いを出すことができる。お立ち台自体は、よくアイドルのライブで使われてはいるが、うちがつくったお立ち台は、メンバーが乗る天板が透明だ。この天板の下に灯体を仕込んで、真上に照明をあてると、メンバーをそれぞれの色で光らせることができる。

 お立ち台が光るとなると、「光るお立ち台」自体がギミックとなり、そこに人が存在してるから、「光るお立ち台オン人」「光るお立ち台ノー人」「光ってないお立ち台オン人」「光ってないお立ち台ノー人」と、1コ1コパターン分けできる。これも重要なのは、多用はしないということ。今回、お立ち台を光らせたのは2曲だ。

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