KORG、Teenage Engineering…… 最新モジュラーシンセの動向を追う

 2019年1月24日から2019年1月28日にかけて、アナハイムにて世界最大の楽器見本市『The NAMM Show 2019』(以下、NAMM)が開催された。KORGやRoland、AKAI、Arturia、Spectrasonicsなどの大手メーカーのほか、大小様々な楽器メーカーが出展し、今年も大きな賑わいを見せた。本稿では、『NAMM』に出展された2つの機材にスポットをあてたい。すなわち、KORGの「volca modular」と、Teenage Engineeringの「Pocket Operator Modular」だ。

モジュラーシンセは今どうなっている?

 これらの機材について話す前に、昨今のモジュラーシンセの動向について触れておきたい。モジュラーシンセとは、シンセサイザーを構成する各部位(オシレーター、フィルター、LFOなど)をモジュール単位で組み合わせられるシンセの総称で、多くはDoepfer社が提唱するユーロラック規格に対応していることから、ユーロラック/モジュラーシンセとも呼ばれる。Moog社の「Moog III-C」などは、イエロー・マジック・オーケストラのツアー映像で目にした人もいるのではないだろうか。

 これらの巨大なモジュラーシステムはやがて小型化され、今日では鍵盤のついた一般的なシンセサイザーという姿で使いやすいかたちに進化を遂げた。しかし、2019年においてもなおモジュール単位での新製品は発売されており、Aphex Twinのようにライブで使用するアーティストも存在している。

 一般的な一体型シンセと比べ、モジュラーシンセは非常にお金がかかる。音を出すオシレーター、加工のためのフィルターやモジュレーター、出力となるアンプ、それにケースや電源など……。ざっと見積もっても、およそ10万円は初期費用として要求される。そこに拡張性やメーカーごとのモジュールの違いなどが絡んでくると、だんだんと沼の気配を感じてこないだろうか。ちなみに筆者は、この沼に身をなげうって久しい。

 いってみればデジタルカメラに対してのアナログカメラにも似たマニアックな界隈ではある。が、このモジュラーシンセが数年前から静かに盛り上がりをみせている。

 2018年には、「MicroBrute」でアナログシンセ界に衝撃を与えたArturiaが「RackBrute 3U/6U」なるモジュラーケースをリリースした。「MicroBrute」はモジュラーライクなパッチングエリアをもっており、パッチングとモジュラーの連携を楽しんでほしいという意図だろう。高品質なエフェクターペダルを手がけているメーカー・strymonも、2018年に初のユーロラックモジュール「Magneto」をリリースした。

 また、2016年にはイースト・コーストシンセの代名詞であるMoogが、セミモジュラーシンセ「Mother-32」をリリース。一方で、“ウエストコーストスタイル”を追求するモジュラーメーカーMakeNoiseも、セミモジュラーシンセ「0-Coast」を同年にリリースし大ヒットした。その前年にあたる2015年には、Rolandが37年ぶりにモジュラーシンセの新製品をリリースしている。

Mother-32 | Semi-Modular Analog Synthesizer

 この流れを受け、モジュラーシンセで使われる信号・CV/GATEに対応したキーボードやオーディオインターフェイスも増えてきた。2017年に登場したAKAIのスタンドアローンサンプラー「MPC X」は、CV/GATE端子をもっている。ソフトウェアの方面だと、モジュラーシンセをモデリングで再現したプラグイン「SOFTUBE Modular」が、2015年に登場。こちらも、現在進行系でプラグインが追加されている。

 こうした背景を踏まえて、2019年に登場した「volca modular」と「Pocket Operator Modular」だ。それぞれポイントを見ていこう。

volcaマインドとモジュラースタイルの融合「volca modular」

KORG volca modular: Modular, Meet volca

 volcaは、KORGが2013年から展開している小型シンセシリーズ。スピーカー内蔵&電池駆動のためでどこでも演奏可能で、良質なサウンドと柔軟な操作性が特徴だ。2016年に登場したFM音源「volca FM」などは、YAMAHAの「DX7」と互換するほどの本気の音作りが、海外でも高く評価されている。

 新たに登場した「volca modular」は、volcaのシルエットを受け継ぎつつ、ジャンパーケーブルによるパッチングエリアを搭載。公式サイトにあるように「シンセの原点である音作り」を正面から愉しめるようになっている。回路はすべてアナログだ。

 音作りに関しては、Moogを始祖とするフィルターを使った減算方式以外に、波形を変調させたり折りたたんだり(シェイピング)して倍音を増やすウエストコーストスタイルが採用されている。ウエスト・コーストの音色は偶然的で、プレイヤーの意表をついたサウンドが飛び出るのが魅力だ。

Korg Volca Modular In-Depth Review

 また、内部結線されているため、パッチングをしない状態でも音が出る。プレーンな状態をベースに、自分なりにケーブルを抜き差ししながら「このツマミの変化はここに影響するのか」と、サウンドに向き合うのも楽しいだろう。volcaならではの機能であるモーションシーケンスを組み合わせれば、複雑なフレーズも簡単に構築できる。実際、あの動きをモジュラーで再現するのはかなり複雑なパッチングが要求される。

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