ディズニーのHulu買収は何を意味する? ジェイ・コウガミが語る、動画配信サービスの現在と行方

ディズニーのHulu買収が意味するもの

 米メディア大手ウォルト・ディズニーが、アメリカの動画配信サービスのHuluを完全子会社化したことを正式に発表した。 

 これまでも海外で動画配信サービス「Disney+」の立ち上げを発表していたディズニーだが、今回のHulu買収でいよいよ動画配信への進出の本格化が期待される。デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏は、今回のHulu買収のディズニー側の意図について、次のように語る。

「ディズニーが映像のサブスクをやりたいという意図は明らかです。今回の『Hulu』と、『Disney+』、さらにアメリカのスポーツ番組のサブスクリプションサービスである『ESPN+』……と、どれも配信するコンテンツ、ターゲット層が違うことが重要なポイントです。ディズニーはHuluを買うことで、Disney+やESPN+では埋められないユーザーを囲んでいく作戦でしょう。マーベル作品やディズニー作品、『スターウォーズ』などのメジャーなコンテンツがあるDisney+では、若年層や子どもがいるファミリー層、ESPN+ではスポーツファン層、そしてHuluでは、若い社会人、所得がある独身のアダルト層へのアピールが期待できます」

 それでは、Huluの現在のコンテンツにはどんな特徴があるのか。

「日本の映像・動画配信コンテンツのなかではあまり耳馴染みのないカテゴリーですが、『プレミアムケーブル』という高クオリティーのドラマを作るケーブル会社のコンテンツは、需要が高いです。日本でも配信される海外ドラマを作っているHBO、Showtime、Starz、FXなどがこのカテゴリーに入り、Huluはそのコンテンツを配信できるプラットフォームの役割を果たしてきました。ディズニーの子会社でもあるFXが製作している『アメリカン・ホラー・ストーリー』、HBOが作っている『ゲーム・オブ・スローンズ』……今回の買収により、今後こういった大きなバジェットやハリウッド俳優を使ったドラマ・映画をHuluで配信しやすくなってくるのではないでしょうか」

 そんなHuluのコンテンツにも、今回の買収で変化が生じる可能性があるという。コウガミ氏は、「Huluで配信されている作品から、ディズニーが権利を持っていないコンテンツがなくなっていく可能性がある」と指摘する。

「主な動画配信サービスにNetflix、Amazon、Huluがありますが、NBCという地上波テレビ局大手や、通信会社のAT&T、ワーナー・ブラザースが持っているワーナー・メディアも動画配信サービスをやりたがっているので、そういった会社が、今回のタイミングに乗じて、自社が権利を持つコンテンツをHuluから自分たちのメディアへ展開する可能性は十分にあります。『ゲーム・オブ・スローンズ』を製作したHBOはワーナーの子会社なので、Huluでの配信をいつまで続けるかは分かりません。

 ただ、作品・会社によりけりですが、ディズニーがHuluを買った時に、コンテンツの配信許可を複数年で契約をしていたりするものもあります。例えば、NBCユニバーサルのドラマ・コメディー・バラエティーは2024年まではHuluで配信できるという契約があるので、すぐにディズニー以外のコンテンツがなくなる、ということではありません」

 Huluから多くのコンテンツが引き上げられるとなれば、当然、新たなコンテンツが必要になるだろう。その場合に、どんなものが想定されるのか。

「日本でもそうですが、海外でもHuluの強みの一つは『ライブTV』というライブ放送です。アーカイブを作らず、その時間帯だけ野球の試合をライブ中継する、というのが好例ですが、これはNetflixなどの他サービスと差別化するための主要コンテンツになるでしょう。さらに今回の買収で、HuluはマーベルやディズニーのIP(知的財産)が使えるようになりますから、それらを活かして、Netflixのように自社コンテンツを増やしていくのではないでしょうか」

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