METAFIVEが提示する“2016年のテクノ”の可能性ーー宗像明将による新作『METAHALF』評

METAFIVEが示すテクノの可能性

 日本のテクノのオリジネーターのひとりである高橋幸宏を中心にした、2016年におけるテクノの決着。そんな大風呂敷を広げて語りたくなるのが、METAFIVEの5曲入りミニアルバム『METAHALF』だ。

 METAFIVEは、高橋幸宏、小山田圭吾、砂原良徳、TOWA TEI、ゴンドウトモヒコ、LEO今井によるバンド。小山田圭吾はCorneliusとして活動し、Yellow Magic Orchestraのライブにも参加してきた。砂原良徳は電気グルーヴを脱退後、ソロで活動。TOWA TEIもディー・ライトで活動後、ソロに転身したアーティストだ。ゴンドウトモヒコは、pupaで高橋幸宏とともに活動してきたほか、Yellow Magic Orchestraのライブにも参加し、フリューゲルホルンなどの管楽器も響かせてきた。LEO今井は、ソロのほか向井秀徳(ZAZEN BOYS)とのユニット・KIMONOSでも活動。高橋幸宏の2013年のアルバム『LIFE ANEW』のレコーディング・メンバーであったIn Phase(ジェームス・イハ、高桑圭、堀江博久、ゴンドウトモヒコ)のライブに、ゲストとしてLEO今井が参加したこともあった。

 この顔ぶれは、そもそもはEX THEATER ROPPONGIで開催されたライブシリーズ『EX THEATER OPENING SERIES 2014 NEW YEAR PREMIUM GO LIVE vol.1』に2014年1月17日に出演したメンバーだ。その音源は「高橋幸宏 & METAFIVE」名義による『TECHNO RECITAL』としてリリースされている。

 そのライブ盤『TECHNO RECITAL』を聴いた段階では、正直なところ『METAHALF』への進化は想像できなかった。ゴンドウトモヒコによる管楽器も鳴る、新鮮なアコースティック解釈のアレンジの楽曲もあったものの、やはりYellow Magic Orchestraの「CUE」や「中国女」、そして高橋幸宏の1981年のアルバム『NEUROMANTIC(ロマン神経症)』に収録されていた名曲「Drip Dry Eyes」といったセルフ・カバーの存在が大きかったからだ。この時点では、高橋幸宏が豪華メンバーをバックバンドにして、往年の名曲をサービス精神たっぷりに演奏している、という雰囲気だった。「テクノ・リサイタル」というアルバムタイトルそのままに。

 しかし、彼らは高橋幸宏がキュレーターを務める野外フェス『WORLD HAPPINESS』にも出演し、2015年には「METAFIVE」へ改称。2016年の年明けすぐにオリジナルアルバム『META』をリリースした。

 いわば「高橋幸宏とバックバンド」による作品であった『TECHNO RECITAL』と、「高橋幸宏がメンバーのひとりであるバンド」による『META』では、まるで感触が異なった。「Don't Move」はカットアップされた音に彩られたファンクのようだ。「Luv U Tokio」には、Yellow Magic Orchestraの「テクノポリス」の「TOKIO」というボイスが一瞬だけ引用されている。「Albore」の終盤では、バリ島のガムランやケチャが模されていた。Yellow Magic Orchestraの系譜を隠すことなく、しかし堂々と新しいサウンドをひとつのバンドとして提示していたのが『META』だった。

 この『META』について公式サイトに掲載されたインタビューの中で、高橋幸宏は「今回はみんな、自分がつくった元の曲を他のメンバーに投げかけていくという作業が一番楽しかったみたいですね」と語っている。制作段階で、各自に明確な作業分担があるわけではないようだ。同インタビューで「METAFIVEは自己完結できる人ばかり」と語っているのは砂原良徳だが、我が道を行く6人がわざわざバンドを組んだ結果、お互いの手癖を殺し合って別の可能性を広げていることも感じたものだ。

 そして、『META』から10カ月後に届けられたのが『METAHALF』だ。作詞作曲に砂原良徳とLEO今井がクレジットされた「Musical Chairs」はいきなりのエレクトロ・ファンク。作詞作曲に小山田圭吾とLEO今井がクレジットされた「Chemical」のリズムにはニュー・ウェーヴをも連想した。

 「Egochin」は、作詞作曲に高橋幸宏、ゴンドウトモヒコ、TOWA TEI、LEO今井と4人がクレジットされている。高橋幸宏のソロ路線の楽曲かと思いきや、ギターに導かれてどこかへさまよいだしているかのようなサウンドだ。リード・ボーカルが高橋幸宏とLEO今井のふたりであることの意義も大きく、高橋幸宏のカラーだけには染まらない。

 『METAHALF』の中でも、「Peach Pie」は中期のYellow Magic Orchestraを連想させるサウンドだ。作詞作曲のクレジットは、TOWA TEI、LEO今井、砂原良徳。しかし、LEO今井のボーカルもサウンドも熱を帯びており、テクノがベースでありながらも生っぽい感触の演奏を聴かせていく。

 最後の「Submarine」は、作詞作曲に高橋幸宏、LEO今井、ゴンドウトモヒコがクレジットされた楽曲。バンドのサウンドは、エレクトロニックな枠組を軽々と飛び越えていく。

 「テクノポップ」という言葉は長く使われてきたが、それはとても曖昧な概念であり、そして飽和したジャンルでもある。そのテクノには2016年現在どんな可能性があるのかを、高橋幸宏とその影響下にあるミュージシャンたちは『METAHALF』で提示しているかのように感じられるのだ。

 そして『METAHALF』は、Yellow Magic Orchestraを知らない世代にも新鮮な音楽だろう。それこそ、METAFIVEのふたりのリード・ボーカルである高橋幸宏とLEO今井は、それぞれ1952年生まれと1981年生まれ。約30歳差のメンバーを擁するバンドならではのサウンドが鳴っているのが『METAHALF』なのだ。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

■リリース情報
『METAHALF』
発売:2016年11月9日
価格:¥1,800(税抜)

■ライブ情報
『METAFIVE “WINTER LIVE 2016"』
11月30日(水) 広島 クラブクアトロ
12月1日(木) 大阪 なんばHatch
12月3日(土) 東京 ZEPP DiverCity
12月5日(月) 札幌 ペニーレーン24
12月6日(火) 札幌 ペニーレーン24

■オフィシャルHP
http://sp.wmg.jp/metafive/

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