MFSのラップは他の追随を許さない 1stアルバム『COMBO』は2024年を勝ち抜く一作に

MFSのラップは他の追随を許さない

 MFSの1stアルバム『COMBO』がすばらしい。2024年の国内ヒップホップを代表する一枚になるであろうこの作品は、国境を超えワールドワイドで聴かれるべき高いクオリティ、MFSでしか出せない魅力がぎゅうぎゅうに詰まっている。

 2021年から楽曲を発表しハイスピードでプロップスを積み上げてきた彼女だからこそ、未だフルアルバムを出していなかったことに驚いたが、そのくらい劇的な3年間だったように思う。「BOW」は、ゲーム『Overwatch 2』に起用されたことで世界各国Spotifyバイラルチャート1位に輝くヒットを記録した。Bonbero、LANA、Watsonとの「Makuhari」、さらにAwichとの「ALI BABA」など、様々なラッパーとの共演では大きなインパクトを残してきた。Spotifyの次世代アーティストサポートプログラム「RADAR: Early Noise 2024」にも選出されたことで、今現在もますます注目度は高まっている。音源だけではない。昨年のヒップホップフェスティバル『POP YOURS』ではダンサーを従えた舞台演出で、圧巻のコレオグラフィを披露。YouTubeチャンネル「Boiler Room」で公開されたパフォーマンス映像の熱狂も記憶に新しい。肩の力の抜けたパフォーマンスはユニークなグルーヴを創出し、数多のラッパーとの違いを生み出すことに成功している。

MFS - BOW
Bonbero, LANA, MFS, Watson - Makuhari (Music Video)
Awich - ALI BABA feat. MFS (Prod. Chaki Zulu)
MFS | Boiler Room Osaka: FULLHOUSE

 怒涛の勢いで階段を駆け昇っているMFSだが、今作『COMBO』の凄さを一言で述べるとするならば、“メリハリ”だろう。昨年あたりからラップジャンルの話題作に対して「一枚通して聴きづらい」「ダレる」といった声がちらほら聞こえるようになってきているが、本作はそのような状況をブレイクスルーする力を持っているように思う。まず、ビートが強い。冒頭の「BINBO」から振動するベース音がキレているが、他にも「IMPACT」や「Chase Remix」など、プロデューサーのRUIが繰り出すロウ域が容赦ないフロア仕様で出力されている。他にもその手数は多岐に渡っており、「Turning」や「Bless You」ではUKガラージを物憂げなニュアンスで料理。これだけバラエティに富みながらも散漫な印象になっていないのはさすがだ。ライブでもMFSのバックDJを務めているRUIだけに、恐らくどの曲も綿密にコミュニケーションを経たうえで作られたのではないだろうか。

MFS 1stフルアルバム『COMBO』
『COMBO』

 ムードを二転三転させながら最後ジャージークラブ風のビートへとなだれ込む「SAICO」、ドラマ性と迫力を備えた「New World」は、それぞれTaydex a.k.a Taylor DexterとTaka Perryといったプロデューサーのワーク。客演に入ったJJJがプロデュースを手がけた「Drink」なども含め、基本的にはトラップを軸としながらも、全体的にどこか2000年前後のマニー・フレッシュ的なUSサウスサウンド、さらにはUKダンスミュージックまでも広く射程に捉えたビートが並ぶ。普通であれば、ここまで多種多様なビートだとラップが飲まれてしまいがちだが、メリハリある印象で聴かせられているのは、MFSの余裕あるラップのなせる業だろう。これだけ広範なリズムを操りながら、所属するクルー・Tha Jointzではブーンバップにも難なく乗せているのだから、その実力は底知れない。

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