レキシは“大衆の求めるポップアーティスト”として定着? 最新作『ムキシ』から考える

参考:週間アルバムランキング2018年10月8日付(2018年9月24日~2018年9月30日・ORICON NEWS)

レキシ『ムキシ』

 チャートの世界は下剋上と言われます。ちなみに“下剋上”とは室町時代に生まれた言葉で、社会的に身分の低い者が身分の上の者を政治的・軍事的に倒していく風潮のこと。いわば身分秩序の崩壊、伝統的権威の失墜ですね。織田信長などが活躍した戦国時代の言葉として使われることも多いけれど、君主たる大名の下に家臣団の衆議・合議があった戦国時代は、完全な意味での下剋上ではない、とする見解もあるのですよ。

 若干うざいウンチクを披露したところで今週のアルバムランキング。チェックしていくと二度見せざるを得ない瞬間が訪れます。2位にレキシ。2位っ!? もう一度確認し、ほんとに2位だ……と放心することしばし。1位のiKONは6.5万枚なので数字では離されていますが、それでも次にレキシ。最新作『ムキシ』のセールスは2.3万枚で、デジタルアルバムランキングでも2位を獲得しました。もちろんこれは彼にとって過去最高位です。

 2008年に解散したSUPER BUTTER DOGのキーボーディスト、池田貴史のソロプロジェクトであるレキシのデビューは今から11年前で、コンセプトはソウル/ファンクと日本史の融合です。一朝一夕に生まれたものではなく、実は90年代から同じくSUPER BUTTER DOGの永積タカシと共作しては、忘年会などで披露されていた歴史ソングがいくつかあったそう。最初はあくまで歴史縛りのネタというか、休み休み言う冗談、みたいなものだったのでしょう。

 ですが、続けてみれば日本史は万古千秋、解釈も針小棒大。実在した豪傑の本音に思いを馳せる歌、どこかにあったであろう武士の憂鬱、あるいは庶民の風俗を描いた歌。また忍者や岡っ引きなどを主人公にした時代劇風ラブソング、昔話風ポエトリー、さらには遺跡や地名の語感だけで始まっていく言葉遊びなど、そのスタイルは底をつく気配がまったくありません。で、どれも面白いうえに曲がいい。2007年の1stはオリコン初登場38位、2011年の2ndは78位といった状態でしたが、2012年の3rdは20位、そして4枚目と5枚目はともに初登場7位にランクインするなど、レキシの評価は驚くべき高まり方を見せていくわけです。

 そうして遂に! 2年ぶりの『ムキシ』は堂々の初登場2位。もちろんこれには伏線もあり、アルバム収録曲のうち「GET A NOTE」はフジテレビ系アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(フジテレビ系)エンディング主題歌、そして「SEGODON」はNHK大河ドラマ『西郷どん』パワープッシュソング。ともに巨大タイアップのついたシングル曲としてすでに巷に流れまくっているのです。大人気アニメと大河ドラマ。これ以上ないほど協力なバックアップは、今のレキシが余興でもイロモノでもない、大衆の求めるポップアーティストとして定着した証なのでしょう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「チャート一刀両断!」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる