「サザンの素晴らしさを感じてほしい」花火コレオグラファー大矢亮に聞く『茅ヶ崎サザン芸術花火』

花火総合演出語る『茅ヶ崎サザン芸術花火』

 『茅ヶ崎サザン芸術花火2018』が、10月27日にサザンオールスターズゆかりの地・神奈川県茅ヶ崎市のサザンビーチちがさきにて開催される。関東での初めての開催やサザンオールスターズの楽曲のみを使用したワンアーティストの楽曲だけで構成される世界初の当イベントの試みについて前回はオーガナイザーの浦谷幸史氏にインタビューした。今回は、総合演出(花火コレオグラファー)の大矢亮氏に取材。演出面からみたサザンオールスターズと芸術花火の魅力、そして現在の花火大会が抱える問題点、今後の芸術花火の展望なども聞くことができた。(編集部)

サザンの曲と花火が合わさったところで、感動していただけるように 

ーー先日、プロデューサーの浦谷さんにもお話を聞いたのですが、まずは『茅ヶ崎サザン芸術花火』における、大矢さんの役割からご説明いただけますか?

大矢亮(以下、大矢):はい。浦谷さんは、ある意味『茅ヶ崎サザン芸術花火』の仕掛け人みたいな感じで、あっちに働きかけたり、こっちに働きかけたりしながら、チームを編成していく役割の方で……僕は、その花火部門みたいな感じですね。一応、“花火演出”という形で名前が入っているのですが、いろいろな花火製造業者さんの取りまとめみたいな形で、花火部門のコーディネートもやっています。

ーー大矢さんの肩書きは、“花火コレオグラファー“という、あまり聞かないものになっていますが、これは具体的には、どういうお仕事になるのでしょう?

大矢:コレオグラファー(振り付け師)という言い方に合わせると、文字通り、花火を踊らせる人ですね(笑)。具体的には、曲を聴いて、この曲のどこで、どういう玉を、どんな具合いに打ち上げるかを、ひたすら考える仕事です。

ーー“花火コレオグラファー”と名乗っている人は、大矢さん以外にもいるのでしょうか?

大矢:“花火コレオグラファー”と名乗っている人は、多分いないと思うんですけど、通常の花火大会や競技会用に演出を組む人は、もちろんたくさんいて。そういう人たちのことを、昔は“花火プログラマー”と言っていたんですね。要は、その曲に合わせて、花火の構成を考えるという。で、大体の人は今もそういう感じでやっていると思うのですが、去年、アメリカの花火業者の方と話したときに、「自分は、こういう仕事を担当している」と言ったら、「それはこっちだと、コレオグラファ―になる」と言われたんですね。以来、そういう肩書きで、僕はやらせてもらっている感じです。

ーーそんな大矢さんがメインで手がける“芸術花火”とは、他の花火大会とは、どんなところが違うのでしょう?

大矢:今回の『茅ヶ崎サザン芸術花火』もそうですが、やはりまずは、音楽ありきの花火であるということです。そして、花火のクオリティを絶対に下げないということ。“芸術花火”は、玉数勝負ではなく、一発一発のクオリティを重視しているんです。もともと花火屋というのは、自分のテリトリーの仕事をやっていれば、回っていくような商売だったんですよね。ただ近年、花火大会の主催元である自治体の補助金が減らされたり、協賛主である企業が撤退したり、あと自治体のほうも、ひとつの業者だけでずっとやっているのは、ちょっと問題なのではないかという話になって……。

ーーご時勢ですね。

大矢:で、ある時期から、コンペになっていったんですね。ただ、そうなると、どこからか安い玉を買って、「今まで一万発だったところを、うちは三万発でやります!」みたいな業者が現れてきて……確かに数が多いほうが見た目のインパクトは大きいんですけど、我々からしてみれば、抑揚はないですし、端的に言ってあんまり綺麗じゃないんですよ。それまで世界最高峰の技術を持つ日本の花火を散々見てきたのに、「何でそこで数にいっちゃうの?」っていう思いもあって。

ーーそういう状況のなか、花火の品質にこだわったのが、“芸術花火”であると。

大矢:そういうところはあると思います。あと、僕の個人的なところで言うと、それまでは業界の慣例で、特定の花火屋さんとしか仕事ができなかったんです。でも、他にもいい玉を作っている花火屋さんがいて、それぞれ個性的な花火を作っているわけじゃないですか。だったら、そういうものを全部一緒に混ぜ込みながらやりたい……というか、そうやっていろんな花火屋さんの玉を一度に見せられるような花火大会って、競技花火の大会を除けば、それまでなかなかなかったんですよね。いろいろなしがらみがあって。そういうしがらみとは関係なく、ただ単にクオリティの高いものを目指してやりましょうっていうのが、“芸術花火”であり……“芸術花火”を謳うのであれば、やはりその部分は譲ってはいけないところだと思っています。

ーー“芸術花火”は音楽ありきとのことですが、その音楽は、通常どんなふうに決めていくのでしょう?

大矢:選曲に関しては、また別に専門の担当者がいるのですが、その音楽選びが、とにかく大変なんですよね。基本的に、チケット販売で成り立っているイベントなので、その間口はできるだけ広くしたいというか、見てもらってナンボだろっていうところがあるわけです。なので、音楽に関しても、あんまりコアになりすぎず、そのとき流行っているものも混ぜ込んで……って選んでいくと、選曲的には、紅白歌合戦に近いものになっていくんですよね。

ーーポピュラリティ重視というか。

大矢:そうですね。世代的にも、あちこちまたがるようなものを意識して。とにかく、お子様からお年寄りまで、幅広い年代のお客さんを、いかに飽きさせないかっていうところがポイントになっていくので。だから、基本的に1アーティストの楽曲だけでやる芸術花火は、今までなくて……仮にレコード大賞を獲っているようなアーティストでも、その人の過去の楽曲となると、なかなかみなさん知らなかったりするじゃないですか。だから、普通は不可能なんです。

ーーにもかかわらず、サザンオールスターズであれば、それが可能であると。

大矢:そうなんです。サザンであれば。サザンだったら、むしろ絶対にすごいことになるだろうと思いましたし……そんなアーティストは、他にいないと思うんです。もちろん、その分、責任重大にはなってくるんですけど(笑)。サザンの曲の素晴らしさも、この場で改めて感じてもらいたいですし、そこで日本の花火が本当にすごいんだということも見てもらいたいですし、それが別々ではなく、合わさったところで、感動していただけるようなものにしないと意味がないので。

ーー今回の“芸術花火”は、ひとつのアーティストからの選曲、しかもそれがサザンということで、通常の“芸術花火”とは、構成上意識するところも、少し違ったりするのでしょうか?

大矢:そうですね。最初から“サザン”を謳っているので、来てくださるお客さんも、サザンのファンの方も多いでしょうし……それによってハードルが低くなるのか、むしろ高くなるのかは、なかなか難しいところだとは思うんですけど(笑)。そういう意味で、やりやすくもあるし、大変でもあるという。そう、サザンの場合は、他のアーティストよりも、歌詞がガンガン頭に入ってくるんですよね。サザンの曲の歌詞には、それこそ“花火”というワードも頻繁に出てきますし。なので、そこから着想を得たりもするんですけど、あんまりそれをやり過ぎてしまうのも、ちょっと違うような気がしていて。とにかく、いろいろと悩みは尽きないですけど、1アーティストの曲で“芸術花火”をやらせてもらえるというのは、我々の念願でもあり、サザンオールスターズでしか考えられないことでもあるので、非常にやりがいのあることだと思っています。あと、単純に色々考えている時も楽しいです(笑)。

ーー(笑)。

大矢:あと、今回改めてサザンオールスターズがすごいと思ったのは、サザンとしてのテイストは、ちゃんとどの曲の根っ子にもあるのに、一曲一曲のキャラクターが、すごく立っているところなんですよね。この曲は、こういう感じでやってみようとか、こんなふうに遊んでみようっていうのが、一曲一曲すごくはっきりしているというか。で、それらをまとめて聴いても、全然飽きないじゃないですか。そこは改めて、他のアーティストとは圧倒的に違うなって思いましたし、こっちとしては、それにどんどん乗っかっていくような感じですよね。

ーーなるほど。

大矢:あと、僕が演出的な部分で得意としていて、まわりからもある程度評価を受けているのは、むしろ花火が上がってないところだったりするんです。つまり、その余韻みたいなものを、音楽とシンクロした形で、どう表現するかっていう。サザンはバラードもすごく良いので、当日はその部分にも注目していただけたら嬉しいですし、“芸術花火”は、毎回音響面にもこだわっているんですけど、今回はビクターさんが楽曲提供という形で正式に参加してくださっているので、いつも以上に期待してもらっていいというか、音響的にもかなり良いものになると思います。

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