BUCK-TICKに憧れた“カラオケマニア”ディレクターが作る『龍が如く8』の世界 堀井亮佑×青木千紘対談

『龍が如く8』堀井亮佑×青木千紘対談

 2024年1月26日にセガより発売された『龍が如く8』は同シリーズの最新作であり、シリーズ史上最大のボリュームが発売前より話題になっていた。『龍が如く7外伝 名を消した男』を経てとうとう発売され、世界中で熱烈な支持を受けているタイトルだ。

『龍が如く8』オリジナルサントラ 【試聴動画】

 今回は本作のチーフディレクターを務めた堀井亮佑氏と、ミュージックディレクターを務めた青木千紘氏の両名にインタビューを行った。堀井氏は同作定番のプレイスポットの「カラオケ」を考案した人物であり、作品内のカラオケ楽曲の作詞を務める。『龍が如く』シリーズの音楽について、また最新作のカラオケ楽曲制作についてなど、さまざまな話を伺うことができた。(白石倖介)

“カラオケ”を実装できる『龍が如く』の懐の深さ

『龍が如く8』
『龍が如く8』カラオケ

ーーまずは改めて、お二人が今回『龍が如く8』でどのような役割を務められたのかを教えて下さい。

堀井亮佑(以下、堀井):『龍が如く』シリーズのチーフディレクターを務めています。ゲームのディレクターというのは、ゲームの中身をどういうものにして、どんなコンテンツをどんなクオリティで入れるのかといったことをつかさどりながらチームをまとめていく職種で、言うならばゲームの面白さの総責任者のような役職です。『龍が如く8』に関しても、企画の立案の段階からずっとやっていたディレクターとして携わってきました。

青木千紘(以下、青木):私は前回の『7外伝』と同じく、音楽を統括するミュージックディレクターのポジションです。自分で作曲もしながら、いろいろな人の曲を取りまとめたり、楽曲の方向性を決めたり、それを堀井と一緒に確認していくような役割を担っていました。

ーー堀井さんは2006年にセガに入社して『龍が如く2』を担当してからずっと『龍が如く』チームに所属していると伺いました。

堀井:そうなんですよ。

ーー当初はプランナーを担当していたそうですが、ゲームプランナーというのはどんなお仕事なんですか?

堀井:プランナーは「企画」とも呼ばれるんですが、基本的には「仕様を作成する仕事」です。仕様というのは「今回のゲームにはこういうイベントを何個入れます」とか、「Aボタンでジャンプします、Bボタンでダッシュします」とか、そういった細かいゲームを作るための設計書のようなものです。どういうゲームを作るかを仕様によって具体化し、それを実際に作るために必要なキャラクターだったりステージといったデザイン素材や、SEやBGMなどのサウンド関連、そしてそれらを動かすプログラマ制御などを割り出し、依頼します。

 そしてそれらを集めてゲームとして仕上げ、バランスを調整しながら最終的な完成形まで持っていくという感じですかね。僕は2006年、『龍が如く2』のときにプランナーとして参加してから、ずっと『龍が如く』を作り続けていて、『龍が如く5 夢、叶えし者』からメインプランナーになり、『龍が如く7 光と闇の行方』からディレクターになるという形で今に至ります。

堀井亮佑
堀井亮佑

ーー学生時代にはバンド活動などもなさっていたと。

堀井:はい。もともと音楽が好きだったので、中学生のころからバンド活動はしていましたね。BUCK-TICKに憧れていたんです。彼らの『SiX/Nine』(1995)というアルバムに「CD1枚でこんなに人に感動を与えられるのか」と衝撃を受けまして、そこから大げさではなく人生が変わりました。いつか自分もこんな風に誰かの人生を変えられるような、すごいエンターテインメントを作れる人間になろう、と漠然とですが心に誓ったのを覚えています。ただ自分が作れるもの、作るべきものが音楽なのか映画なのかゲームなのかはその時はまだ分からなかったので、バンドをやったり、作詞をしたり、ヴァイオリンを習い始めたり、小説や文を書いたり、演劇をかじったり……興味あるものは手あたり次第、夢中でやっていましたね。

 その後大学卒業する際にエンタメ業界で就職活動をしたんですが、その頃はちょうどPlayStation 2の後期で、重厚なドラマを描く映画的なゲーム作品が増えている時期だったんです。音楽やシナリオなど、僕が学生時代に色々かじっていたものが全部入っているし、技術的にもこれからどんどんできることが増えていくという確信があったので、「何が自分に合っているのかはまだわからないけれど、今までやってきたことがどれでも活かせそうだな」と思い、ゲーム業界に入ったんです。

青木千紘
青木千紘

ーー青木さんから見て、堀井さんのような出自を持つ方がディレクターとして立っていることは、意思疎通のやりやすさや、話の通じやすさにつながるところはありますか?

青木:通じやすいですね。音楽に詳しいので我々サウンドスタッフと同じ目線で話ができ、時にはこちらの提案に対してより広い視野でアドバイスをいただくこともあり、現場としてはやりやすいです。音楽に詳しいプランナーやディレクターってそうそういないと思いますので、珍しいケースかと思います。

堀井:プランナーとかディレクターは基本的にはゲームのプランニングとか、チームのリーダーシップを取れることを期待されて採用されることが多いので、「音楽に詳しい」ことはあまり求められないですからね(笑)。僕も音楽の知識で採用されたわけではないです。ただ、個人として持っていた「音楽」という引き出しはなんとかゲームデザインに活かしたいとは思っていたので、それが『龍が如く』内に「カラオケ」という形で自分の得意な歌モノのゲームを入れる、という提案に繋がったんだと思います。

 『龍が如く』というタイトルの器が広いからできたことだと思うので、そこは良かったなぁと思いますね。なかなか他のタイトルで「カラオケ」なんて入れられませんから(笑)。

青木:そうですね(笑)。

ーードリームキャストの時代からセガのゲームって、"歌"をすごくちゃんと取り扱っていた印象があります。"セガ好きなセガ社員"として入社前を振り返ってみて、セガのそういうところもお好きでしたか?

堀井:それもありますね。セガは音ゲーを含め、音楽、特に歌をゲームに絡める手法を多く取り入れているな、という印象はありました。そこに惹かれたのかもしれません。やっぱり僕は歌が好きなので。「ゲーム音楽でグッと来るのは何?」と聞かれたら、初期体験として思い出すのは『ときめきメモリアル』の主題歌と『実況パワフルプロ野球』の主題歌、そしてやはり何よりセガの『サクラ大戦』なんですよ。BGMにも好きな楽曲はありますが、やはり歌があるコンテンツは華やかでエンターテインメント性がありますし、ムービーとともに歌が流れると一気にテンション上がる。僕が「歌」を大事にしたゲームデザインをするのも、多分その影響を受けているんだと思います。あとセガは当時、『ジェットセットラジオ』のように音楽をカルチャーとしてフィーチャーしたゲームなども作っていて、そういった部分も好きでした。

ーー『龍が如く8』の製作が始まったのはいつ頃でしょうか?

堀井:『龍が如く7 光と闇の行方』が終わってすぐだから2020年ごろですね。

 『7』の発売後の反応がとてもよかったんです。主人公も変え、ゲームジャンルまでアクションからRPGに変えるという意欲作だったので、発売前までは正直悪評だらけで、「なんでRPGなんだ」「春日一番って誰やねん」というようなご意見であふれていたんですけれど、作っている自分たちは絶対に面白いという自信があったので、これがダメならゲーム制作をやめようくらいの気持ちで出したんですが、結果としてプレイヤーの皆さんにも面白いと評価いただくことができました。ただ、RPGのシステムで『龍が如く』をやるということは初めての試みだったので、作っている途中から「もうちょっとこうできたらよかったね」という伸びしろみたいな部分は結構感じていたんです。バンドの1stアルバムじゃないですけど、今できる精いっぱいのものはできたけど、次はもっと洗練したものが作れるはず、みたいな。そのため『8』ではそこをしっかりやろうと決めました。RPGのシステム面の改善やストーリー、舞台などの設定を考えていく中で今回の「ダブル主人公」という要素やそれを活かした「共闘」といったキーワードが出てきて、それらを企画書にまとめて制作に入っていったという感じです。

ーー『8』の制作は『7外伝』と同時並行で行われていたということですね。

堀井:はい。制作期間はめちゃめちゃ被っています。

青木:『8』のほうが『外伝』より先に走っていました。そもそも最初は『7外伝』を作る予定はなかったんです。

堀井:『8』で『龍が如く6 命の詩。』までずっとシリーズの主人公を務めていた桐生一馬を出すことにしましたが、『7』で初めて『龍が如く』に触れたプレイヤーさんが国内・海外を含めて実はたくさんいらっしゃったんです。そういう方からすると「桐生一馬って誰やねん」という部分がありますし、『6』ぶりに出てきた桐生が『8』に至るまで何をやっていたのかをちゃんと描かないと、感情移入もしにくいかもしれないな、と。「これまでの桐生一馬」を『8』で描くことも考えたんですが、それだとボリュームがすごくなりそうだし、物語の本筋のノイズになるかもしれない。そういったことも考えて、結果的に『7外伝』という形で『8』に至るまでの桐生の物語と、桐生一馬がどういう人間なのかが分かる作品を作ろう、ということになったんです。当然『8』の開発中だったので、並行作業になってしまうんですけど、ちょうど手の空いてるスタッフも何人かいたし、『8』完成までまだ時間もあるし、まぁ余裕で何とかなるだろう!と(笑)。

青木:開発スケジュール的には空いてなかったですよ(笑)!

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